■鬼婆伝説
昔、私が子供の頃、祖母の所に泊まりに行くのが大好きだった…。それは、夜寝る時に聞かせてくれる昔話や怪談が大好きだったからで、聞けば聞くほど目が覚めて来るものだから”もっともっと”とせがんでいた記憶がある…。まして、今思えば、祖母の話し方も相当に上手かったようにも思うんだけどね。特に大好きだったのが、怪談や妖怪の話で、子供の時から霊が見えていた私にとっては、幽霊よりも妖怪等の類のほうが、かなり怖かったんだろうと察しがつく。
今でも印象深く脳裏に残っているのは”鬼婆”の話で、祖母も髪振り乱しながらの演技もついていたから異常なくらい強烈なインパクトが残ってしまったのかもしれません。皆さんもよくご存知のように、道に迷った旅人がやっと見つけたあばら家に一夜の宿を求めると、そこには一人の老婆がおり、その夜、聞きなれない音で目を覚ますと、老婆が出刃包丁を研いでいて「見たなぁー」って襲って来る話…。
これらの怪談や昔話と言えば、遠野物語等に代表されるように東北地方は特に有名で、民話や昔話の宝庫であるのは間違いない。一度、皆さんも遠野の昔話村等の”語りべ”と言われるお婆さんのお話を聞いてみてほしい…。独特な方言とイントネーションに心温まる事は間違いないはず…。
話は鬼婆に戻るけど、東北の福島県に伝わる鬼婆の話を皆さんご存知だろうか?実は、福島県の安達ヶ原という所には現在も”鬼婆”が住んでいたとされる岩屋や”鬼婆”の墓といわれる黒塚がひっそりと残っている。安達ヶ原に伝わる鬼婆伝説は怖い話であると共にかなり悲しい話でして…。
都の或る武家の家に一人のお姫様が生まれました。その娘は姫と呼ぶにふさわしいまさに顔立ちのはっきりした器量の良い姫さまでした。ただ、その姫さまは生まれつきあまりにも病弱で、長年この武家に遣えていた乳母の”イワテ”は姫さまを不憫に思い街に出て、評判の高いある祈祷僧に伺いを立てたんだそうです…。その祈祷僧は平然と「腹に入った赤子の生肝じゃ。その生肝を姫さまに食わせるのじゃ!でなければ姫さまは20の歳まで生きられまい…」と言いました。イワテはさすがに「そんな恐ろしい事、私には出来ない!」と迷いはしたのですが、長年世話になった家の姫さまがあまりにも可愛く不憫なので、意を決して乳母のイワテは”生肝”を捜し求める旅に出るのです。都ではさすがにやりずらかったんでしょうか?実はイワテには歳が姫さまと変わらない一人娘がおりましたが、当然その娘を連れて行く訳にもいかず、娘にお守りをくくりつけ「母のする事を許しておくれ…」と一人旅立つのです…。何日も何日も歩いて、やっとたどり着いた所が安達ヶ原で、そこで孕んだ女が来るのを幾日も幾年も待ち続けました…。何年もたったある日、道に迷った若い男と女が一夜の宿を求めてイワテのもとを訪ねて来たのです。見ると二人は夫婦のようで、女は妊娠している様子。絶好のチャンス!と思ったでしょう…「さぞお疲れになったでしょう」とイワテは言い二人を家に招き入れ、よく眠れる薬草があるので採って来てほしい…。と男に告げました。男が薬草を採りに外へ出た後…イワテは出刃包丁を振りかざしその女の腹を無我夢中で裂き生肝を手にして、やっと我に返ると、床に落ちたお守りを発見し、愕然とするのです。そう、自分の娘だったのです…。自分の娘を手に掛けてしまったショックからイワテは気が狂い、鬼婆となってその地に住み着いたとされています。
