■トロはマグロもサンマも弱い私だ
落語に『目黒の秋刀魚』という演目がある。 東京の目黒の話だが、目黒では秋刀魚は獲れない。
だが、毎年目黒駅前商店会では秋刀魚を5000匹も仕入れて、それを焼いて一般の人達
に振舞っている。その秋刀魚は岩手県の宮古漁港から取り寄せているそうだ。
だが、秋刀魚と言えば釧路のサンマである。
『釧路のサンマは立つ』と言われるほどに新鮮で旨い。
K社長から連絡が入った。『文七で10日にトロサンマを食べるから、友人達を誘って来ないか?』というものだった。トロサンマというのは釧路のサンマの一番良い物を刺身で食べると、それがトロのような味がすることから来ている。
豚の脂身の多い場所を焼き鳥にして、それを『トントロ』と言う。北海道の人達はトロという言葉に弱いような気がする。ところが私はマグロのトロもサンマのトロも霜降りビーフにも弱い。高価な食べ物があまり好きでないという経済的な男である。
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私はサンマの刺身には弱い。女房も弱い。でも、K社長からの誘いなので、メールで伊達の
友人達を誘う。TさんやKさんには断られた。『サンマの刺身は食べられない』という理由だ。
医師のOさんは『サンマの刺身は食べられないが、刺身を食べている人を見ることは出来るので参加します』と、返事もお洒落である。当日文七に集合したのは、サンマの刺身を食べられる人とそれを見る人の20名であった。
N画伯夫妻は初めて食べると言う。一緒に連れて来たロシア人モデルのアナスターシャは私達とは1年振りの再会である。
この会を開催した理由が可笑しい。1昨年のことだが、N画伯はグルメの友人達にトロサンマを贈った。その時には大層喜ばれてN画伯も満足だった。
そこで昨年はK社長にお願いして、飛びきりのサンマを送る手配をしてもらった。
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ところが着いたサンマを食べた友人達から悪評が届いた。
そこで名誉挽回の為にK社長は今回のサンマ・パーティを開き、今年送るサンマを事前に試食してもらおうという企画なのであった。有珠漁港のY支社長が持参したサンマは全く問題なく素晴らしいサンマであった。でも、多くの参加者は今回が初めてのサンマの刺身なので、これがどれほど素晴らしいかは判らなかった。
(おまけの話)
毎年夏になると私達のコテージの隣にN画伯の絵のモデルをする為にロシアからやって来た美人が宿泊する。昨年来たのはユーリアで、その前はアナスターシャである。
いずれもすらっとした長身の飛びきりの美人である。
困るのは彼女達は日本語が全く出来ないことだ。ユーリアになると英語の単語さえ分からない。その彼女達を描いた絵を5月に日本橋高島屋で開催されたN画伯の個展で見た。
その絵はヌードである。いつも洋服を着ている彼女達しか見たことが無かったが、その彼女達のヌードを絵の中とはいえ見るという経験はなんだか奇妙な感じがする。
『へー、裸になるとあーなってるんだー』なんて不遜な感じを抱くのは凡人の証拠である。その彼女を今度は寿司屋で洋服を着た姿で見るというのは、またなんだか可笑しい。