■台湾から桜を見に来る
台湾人で日本に帰化したJ.Lさんからメールが来た。 『兄夫妻が日本に来る。兄がお宅に伺いたいと言っている』という内容だった。
急の連絡で、その週は珍しく来客が多く忙しいのだが、わざわざ日本まで来るのであるから予定を調整した。
J.Lさんとは30年以上も前に彼が初めて日本に来た時以来の付き合いである。
既に彼の両親は亡くなってしまったが、お父さんは日本の台湾占領時代に日本の教育を受けて育った人なので、日本人以上に日本人らしい厳格な人だった。
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約束の日に弟のJ.Lさんに連れられて、久し振りに我が家にやって来た次男のSさんと奥さんは元気そうだった。
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この世界同時不況の中を、日本の桜の季節に合わせて桜見物に日本に来ることが出来るのだから、彼らは台湾の中でも豊かな部類の人達だ。
J.Lさんとは兄弟なのに、長く日本に居るJ.Lさんとは違い、Sさんは台湾風な風貌である。
土地が人間の風貌も変えてしまうようだ。
女房が用意した日本料理を美味しそうに食べて、話が弾む。
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Sさんは日本語を話せるが流暢ではないので、少し難しい話になると通訳が要る。
そこでも話は亡くなった両親の話から、台湾の景気の話、そして趣味の山登りと際限無く続く。
その日の午前中は夫婦で高尾山に登って来たというのだから、相当に山登りが好きなようだ。
それに、彼らはもう何回も日本に来ているので、北海道もよく知っている。
夏には伊達に来てもらい、次は我々がお墓参りも兼ねて台湾を訪問しようと思う。
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(おまけの話)
J.Lさんとの付き合い始めは彼のお父さん(兆銘さん)との関係からである。
彼が日本に留学し就職もして、暫くしてから兆銘さんが亡くなった。
その葬儀の為に我々夫婦は台湾の台中に行ったことがある。暑い時期の葬儀の為に、亡くなった兆銘さんの亡骸は冷凍庫に入っていた。
日本のお棺と同じ物がステンレスで出来ていて、顔が見えるように窓も付いている。
お棺の端から電気のコードが出ているのだが、冷凍人間を見るのは少し怖かった。
兆銘さんの為に、お通夜から埋葬までお付き合いしたが、現地の人に『埋葬まで来た日本人は初めてだ』と言われた。
そんな兆銘さんの忘れられない思い出がある。
亡くなる少し前に台湾の家にお見舞いに行った私達が帰る時に、弱った体で玄関に直立不動で立って、私達が見えなくなるまで見送ってくれた姿である。
その兆銘さんから贈られた台湾ひのきの大きなテーブルで、いま私はパソコンを打っている。
台湾から兆銘さんの次男夫婦が来て、それを思い出した。
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