■身に余るグルメ
映画を見ていたら、マナーモードにしてある私の携帯電話のバイブ機能が震えた。そこで映画を終って外に出てから、携帯のメールを見た。
そこには女房からのメールで、「T子さんが孫のインフルエンザの看病で、一二岐(いぶき)に行けなくなりました。キャンセルすると全額支払わなければならないので、代りに参加してくれませんか?」とあった。
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この店には今までに2度ほど行っているが、かなりの高級店である。
ランチでも5000円もするので、昼飯はソバと決めている私には驚きの料金である。
でも行っても行かなくても料金を支払うなら、行くしかないと決めた。
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私は「行きます」と返信したら、女房から「良かったー」と返事が来た。そして翌日の昼に「一二岐」に行ったのである。
中央区役所から数分の場所にある店は、細い路地を入ったところにひっそりと営業している。昭和通りを渡ったこの辺りはまだ住所は銀座なので、隠れ家的な小さな高級店がかなりある。
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地下に降りる入口には小さな行灯があり、そこに店の名前が書いてある。他には何も無いので、とても飛び込みで入れる雰囲気の店ではない。
知らずに入って「一見さんお断り」と言われるか、ベラボーな料金を請求されて失神してしまう恐れさえある。
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地下一階の店は白木のカウンターに7席、他に小さな個室が2つある。
私は初めて個室に案内された。でも良かった。気兼ねなく写真が撮れるからだ。
一緒に行った女房の友人のH子さんは食べることが趣味みたいな人で、クルージングが大好きである。船旅は美味しい料理が食べ放題だからではないかと、私だけが疑っている。
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調理人が運んで来た料理が出て来る。料理が盛られた器が凝っている。
中には「金繕い」をして、大事に使っている高価そうな器もある。
和食は料理だけでなく器も楽しむので、お店は資本が掛かって大変だと思う。そこへ行くと、西洋料理は器が1種類だけで良いので楽である。
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料理人が出された料理の素材の説明をする。夫々の料理に手間が掛かっている。この店はミシュランで★1つなので、そこそこのレベルなのであろう。
女房とH子さんは馴染み客なので、板長とも気楽に話をしている。
私が行くような安い店は「馴染み客」にはなれないので、私はその方が気楽で良い。
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(おまけの話)
以前に姉が「私の仕事の関係先の若い寿司職人が谷中に店を出した。1週間に3日だけ営業していて、3ヵ月先まで予約が入っている店に招待する」と言っていた。
そして「予約が取れたら、誘うからね」と言っていたのである。
でも「本当かな?」と思っていたので、私はすっかり忘れていた。
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一二岐に行った夜に姉からメールが届いて、「次の日曜日に予約が取れた」と言った。そこで家族3人で住所を頼りに、千駄木駅近くの「松寿司」という店に現地集合した。
店は古く祖父の代からの営業で、今は3代目で1人で仕事をしている。
彼は他にはフードコーディネートの仕事をしていて、近所にスタジオも持っている。
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店は白木のカウンターだけ8席で、メニューは無く「おまかせ」だけである。握りは小さめで、店主が握り刷毛で醤油を付けてからお客に手渡しする。お客はそれを手で受け取って食べる。この方式は初めてだ。
途中で赤出汁、茶碗蒸しが出て来た。
そして最後にケーキが出て来たのにはもっと驚いた。
これは1月が姉の誕生日なので、それでオーナーが特別に用意したものであった。それにしても寿司屋でケーキを食べたのは、初めての経験だった。
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写真なんか撮ると「田舎者!」と思われそうだ。