ゲームで言えばファイナルステージ。
俺はまさにその舞台に立っていた。
カミさんは「隊長…わたしのことは…心配しないで..本殿を….ううっ」と俺の腕の中で倒れたというわけではないが、とにかくここから先7mは俺一人でミッションを背負うことになった。
見上げれば、岩壁に垂直に伸びる鎖。これを上り切れば、岩窟の本殿だ。
早速持ってきた軍手を両手にはめる。そして鎖を両手でつかみ、交互に上の鎖を求めながら登って行く。手足のうち必ず3つは鎖に絡める。焦らずひとつずつ、ひとつずつ。油断は大敵である。

手足を動かしていくと、鎖全体が揺れる。うー……垂直で足元が見えない。次に足をうまくかける場所がなかなか見つからない。
そんなときは一瞬ざわっと血の気がひく。
しかし慌ててはいけない。
一呼吸をいれ、落ち着いて足の感覚で足を入れる鎖の輪を探す。
そうして少しずつ登るうちに、もうすぐ岩窟に到達しそうになった。

俺は最後まで油断せずに岩窟に滑り込んだ。

滑り込んだこの岩窟の広さは1畳半くらい。人ひとりならば余裕でここに寝泊まりができそうだ。
奥には木造の社殿があった。ここが、太田山神社の本殿だ。俺は持ってきた小銭を賽銭箱にいれ、天候に恵まれ、無事ここまで来られたことに感謝した。何百年もの間、危険を顧みずに、いったい何人の参拝者・修行僧がここまで来たのだろうか。手を合わせながら、この日その一人になれたことに光栄を感じた。

岩窟からは遠くに美しい海が広がっている。
この場所は、松浦武四郎が、仙人の世界に来たようだと喩えた場所だ。その昔、大変な苦労をしてここまで無事に行き着いた人々は皆、きっとそんなことを思い、感慨にふけったことだろう。そういえば前回探検をした秘境の小幌にも仙人と呼ばれる人が暮らしていたっけな。人は下界を離れて何かを超えた存在を仙人と呼び、憧れるのかもしれない。
しばらく佇んだが、長居をするつもりはなかった。待たせているカミさんも気になり出したからだ。
崖の下を覗くとカミさんが見えた。

下を見てしまうと下りる方がどうも怖い感じがしてしまうので、崖下には背中を向けながらそそくさと鎖場を下った。
崖の踊り場に下りて、岩窟の本殿の様子を伝えた。カミさんは最後まで行かれなかったが、ここまで来られて十分満足そうな様子だったのでホッとした。
「それじゃ、帰るか」と我々は橋を渡って帰路についた。下りていく山道の途中、俺はつい気が緩んで足元を滑らせて肘を擦りむいてしまったが、二人とも大した怪我もなく無事に車に戻った。
太田山神社。この日本一危険な神社の探検をクリアした我々にとって、前回の秘境の小幌探検はもはや大したことのないように思えた。
今回の探検の成功を、我々は帰路途中の日本海を臨む太櫓弁天社(ふとろべんてんしゃ)に立ち寄って報告し、近くのおしゃれなカフェ「サッカムセタナイ」のスイーツセットで祝った。

太櫓弁天社にて

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