MENU

噴火湾のある朝に

87

朝早くから、居間の窓越しに静かな海を眺めている。今日は風もあまり吹かないし天気もいいからカヤック日和だな。このところ自分の都合と天候がなかなか噛み合わず、海に出られずにいる。

沖では何艘かの大きな漁船が作業をしている。その中に一艘、旗をたくさん揚げてちょこちょこと走り回る小さな船が見えた。あんなに小さな船で漁をする人もいるのかと気になり、双眼鏡を手に取った。

船の長さは6、7メートルほど。長さだけならシーカヤックとさほど変わらない。船尾に人が乗っているせいで後ろが深く沈み込み、そのぶんバウ(へさき)が持ち上がっている。
小回りのきくその船は、ホタテのゲタの合間を縫って浜の近くを抜け、こちらへ戻ってくる。港に帰るのだろう。どんな船なのか近くで見てみたくて、俺は急いで車で港へ向かった。

港までは車でものの数分だ。車を停めて探すと、その船はすぐに見つかった。着いたばかりらしく、少し小柄な船主が船を降り、足早に市場の建物に入っていくのが見えた。

俺は船を眺めながら、船主が出てくるのを待った。
しかし、半袖のTシャツで来たのは失敗だった。今朝は12度ほどしかなく肌寒い。
まだかなと待っていると、出てきたのはなんと友人の漁師だった。俺より2つ年下の男だ。ちょこちょこと小さな問題を起こしているらしいが、ユニークでとてもいいやつで俺は大好きだ。

「よう!おつかれさん。今日はどうだった?」
「おー……良かったよ。ハモとれたわ。」
「ハモって、アナゴだったっけ?」
「おう……これだ。」
彼はそう言ってコンテナから1尾のハモを出して見せてくれた。本州ではマアナゴに相当するらしい。
とてもきれいな形の魚だったので感心していると、
「やるか?」と彼が言ってきた。
以前もそういいながら彼はワタリガニやツブ貝をたくさんくれたが、今回は断った。ハモなんて捌いたことはないからだ。

それにしても、あんな小さな船にひとりで乗って沖へ出ているとは。
噴火湾では廃業する漁師が多い中、彼は小さな船で漁を続けている。
そのことに感心していると、
「いやぁ、ゆるくないど。俺も61だべや」
と笑いながらぼやいた。

夜が明ける前から海に出て、ひとり踏ん張っている彼を、俺は陸(おか)の上から応援している。
よし、やっぱり今日は俺も海に出てみるか。

\ この記事をシェアする /

犬と暮らしとカヤックと

kayaker

豊浦町でワンコたちと暮らし、たまに海で遊ぶ日常をつづります。

アクセス総数
58,521回

コメントはまだありません。

コメントを書く


kayakerTOPページに戻る