■伏姫と八房
「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が浮き出る、8つの霊玉を持つ八犬士が活躍する伝奇ロマン「南総里見八犬伝」は、全106冊にもおよぶ大作で、滝沢馬琴が28年もの歳月をかけて完成させたもの…。その冒頭を飾るのが、里見義実の娘・伏姫と義実の飼い犬・八房との物語ですよね…。
勝ち目のない戦いの中、義実は「敵将を殺したら伏姫をやろう」と飼い犬の八房に戯れ言を言うのだけど、敗色が濃厚となったある夜、敵将の生首を咥えた八房が城に戻って来る事により、戦いは里見側の大勝利に終わる。義実は八房との約束を果たす気はなかったのだけど、伏姫は父を諌め、八房との約束を守り、富山の山中の洞穴「伏姫籠穴」で、仏に仕えながら八房とと共に暮らすようになる。暫くして、神通いにより伏姫は懐妊してしまう。驚いた伏姫は、身の潔癖を示すために自害してしまった。この時、伏姫の胎内から飛び散ったのが8つの玉で、この玉が八犬士の元へと飛んで行き、その後、壮大なスケールで里見家の興亡が描かれている…。

里見家は、10代にわたってこの地を支配した実力者であったから、史実と合致した史跡が、「南総里見八犬伝」とクロスオーバーしながら存在しているのでしょうね…。現代でも、読み物を超えた伝奇ロマンの地として、特異な歴史観に満ちているのではないでしょうか?
伏姫と八房の「異類婚交」の奇譚で始まるこの物語は、中国古代の説話に由来している側面が強く、雲南省やベトナム北部等に居住している、ヤオ族の始祖伝説とも類似しているところが多い。

また、「南総里見八犬伝」の構成には「水滸伝」の影響も強く見れる。例えば、「水滸伝」の、108の魂が飛び散ると、それぞれ英雄豪傑として各地に現れるという物語の導入部は、八犬士の誕生秘話と酷似している…。
徳川幕府の外様諸候取り潰し政策が行われる中、本領を減封のうえ倉吉に移封された里見家は、元和8年(1622)、嗣子なく家名断絶のうえ取り潰しとなる。その時に殉死した里見家の家臣8名に因んで、八犬士の「8」という数字が付けられたという…。鳥取県倉吉市の大岳院には、当時の藩主・忠義と、八賢士の墓が残っている…。