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[2011.09.16]
■小説「死都日本」を読んで
石黒耀(いしぐろ あきら)さんの小説「死都日本」を読んでの感想文である。この小説は、「霧島火山帯が破局的な噴火を起こして、大災害をもたらす」という想定のSF小説と云える。 



新聞や雑誌での評判は、 
「精密予測 うなる専門家」、「学者たちが舌を巻く、リアルな描写」、「破局を超えて、日本の再生の道を示しているところがいい」などの表現がある。 
単行本の発刊が2002年、文庫版が2008年であるので、既に読まれている方も多いかと思う。 
今回、この文庫本を読んで、かなり引き込まれた。表現力が科学的で豊かである。 
例えば、プロローグでは、西暦79年のローマ帝国のヴェスヴィオ火山の噴火とそれに伴う火砕流に巻き込まれる人間の状況を描いている。 
*(前略) 次の瞬間、怪獣の群(火砕流もしくは火砕サージのこと)は頭上を通過すると海に躍り出た。松明が照らす入口の闇を、全容が分からないほど巨大な物体が飛び降り、素早く反跳して巨躯を船着場に捻込んで来た。三十七の絶叫が地下ドームに満ちたが、怪物の吐く息が一瞬のうちに全員を薙ぎ倒し、鼓膜を破った。 
0.8秒後、摂氏300度を越す瘴気が人々を襲い、血液が沸騰し、皮膚が風船のように膨れて破裂した。熱風が悲鳴を上げ続ける口内に侵入し、熱膨張で歯が砕け、肺胞が弾ける。髪の毛が身を捩りながら縮れ、緊張した眼球が破裂して水晶体が飛び出した。 
6秒後、熱で筋や腱が収縮し、不随意にうごめくアントニオ達の頭上を更に巨大な怪物が通過していった。それはまるで大蛇のように地を這う巨大な灼熱体で、頭部だけで長さ1キロ、胴が2キロ、幅は6キロもあった。長く伸びた尾部は6.5キロ離れたヴェスヴィオ山上にあり、死んだように動かない。 
蛇のような怪物は、その巨体にも拘わらず極めて敏捷で、致死性の硫黄ガスを吐きながらヴェスヴィオ山頂からヘルクラネウム間を4分で走破し、海に入るとその体熱で海水を蒸発させて、ナポリ湾を400メートルも後退させたのである。 (後略)* 
噴火によって起こった巨大な火砕流の高熱、高圧、高速な動きを受けた時に、人間はあまりにも無力で、その怪物に飲み込まれてしまう様を、リアルな筆致で描いている。これだけでも火砕流や火砕サージの持つ巨大なエネルギーや圧倒性が充分に伝わってくる。ただ火砕流とか火砕サージという言葉の定義を聞くのとは違い、それが人に及ぼす威力を充分に感じてしまう。 
 
社会的な現象と地学的なビッグイベントが妙に符合するという指摘も目新しい。 
*踊狂(ようきょう)現象、もしくは大衆乱舞現象。どちらも聞き慣れない用語であるが、言葉の通り集団で踊り狂う現象である。それも百人や二百人ではない。全国同時多発的に何十万人、何百万人が踊り狂い、大河の奔流の如く溢れ出して伊勢参りをするという日本独特の怪奇現象で、古くは飛鳥時代からそれらしい記述がある。 
西暦938年には、はっきりした記録が残っており、次第に大規模化していった。1705年の大衆乱舞現象では、全国で実に三百五十万人が参加。「お陰踊り」を踊りながら伊勢神宮へ集団参拝した為、「お陰参り」とも呼ばれる。当時の人口が二千万人台だったことを考慮すると、社会学者はこれでよく国家体制が維持できたものだと感心するが、著者はまったく別な観点からこの現象に注目している。 
実は、踊狂現象の後には、奇妙な程に地学的な大事件、それも世界規模の地学イベントが発生するのである。 
本から抜粋すると、 
【踊狂現象発生年】 【地学的事件】 
1096年     1096年東海地震(M8~M8.5)推定死者一万以上 
          1099年南海地震(M8~M8.3)推定死者数万 
1497年     1498年南海地震(M8.2~M8.4)死者四万以上 
1604年     1605年慶長地震(東海地震M7.9、南海地震M7.9)死者一万~二万 
1705年     1707年宝永地震(東海~南海地震M8.4)死者二万以上 
          1707年富士山宝永噴火 
という具合である。東海地震・東南海地震・南海地震に関しては、近年よく新聞・テレビで騒がれているから詳解の必要はあるまい。(中略) 
これらの地震や富士火山噴火といった大地変を予言するように踊狂現象を起こすのが、 
日本人という民族の不思議さである。世界有数の天災国で生活するうちに、地震前に騒ぐ犬のような能力が育ったのであろうか?* 
確かに、地震や噴火の予兆を嗅ぎ取った一部の人々が行動を起こし、大衆を巻き込み、その結果、多くの民衆が天変地異から逃れたい、あるいは世界の終末だとやけになっての大行動につながっていったものか? 
今年東日本を襲った大地震とそれに伴う大津波の災害の前には、何か日本人の集団的な行動があっただろうか?強いて云えば、2年前に戦後長らく続いた自民党政権から民主党政権に変える審判を国民が下したが・・・・。 
実は、わたしがこの本を読むきっかけとなったのは、先日隣町の壮瞥で開かれた石黒耀さんの講演会を聴いたからだ。 
講演では、石黒さんが学生時代に宮崎で経験されたことから話し始まり、市内から見えた霧島連邦の峰々の中の、ピラミダブルな三角形の山の印象を語られた。その辺りから火山への興味ができ、「人はなぜ火山の元に集まるのか?」というテーマを持った。 
人類は、遠い昔から火山の恩恵に浴してきて、脈々とDNAの中にそのことが蓄積して来ているのではないか?という仮説に至ったようだ。 
噴火が収まった火山の周りには、やがて草木が生えて動物も集まり人は狩猟することができるようになる。溶岩や火山灰に覆われた山腹に降った雨や雪はやがて地中で濾過される間に、人にとって必須なミネラルを含む水を供給してくれる場所となった。人は火山の周りで定住することを覚え、もしかすると火の使い方や火山の熱を利用した調理なども覚えたのかもしれない。数百万年の人類の歩みのうちに、人は火山帯こそエデンであり、火山が創造神であるという風に自然に思い至り、DNAに刻み込まれたのではないだろうか?というのが石黒さんの考えのようだ。世界各国に残る火山神の伝説や日本の古事記の中に表現されている事柄も火山活動と結びつけて解釈できるという説明もされた。 
このような小説を書くきっかけとして、“布教”という言葉も使われていた。 
講演後の質疑では、 
「石黒さんは専門の火山学者ではないですが、これだけリアルに火山活動のことを描くには、どんな本を読んで勉強されたのですか?」 
「主に2冊の火山に関する本です。うち一冊は、きょうこの講演会にも出席されている宇井忠英先生の著書です。」 
というやりとりもあった。小説の巻末に、参考文献として、 
「火山噴火と災害」宇井忠英著 東京大学出版会 
とあるので、この本でもかなり勉強されたようだ。 
また、参考文献の著者の中に、小林哲夫さんの名前も見かけた。この方は、わたしのクラブの後輩で、鹿児島大学で地質の教授をされている。先日、有珠山の調査のために来道された折に、一杯飲んだので懐かしく思い出した。 
 
この小説の舞台となった霧島連峰はかって友と訪れたことがあった。韓国岳や新燃岳の辺りを歩いたことがあった。新燃岳の火口はエメラルドグリーンの水を湛えていた。小説の中で火砕流に襲われる飫肥の町も訪れた。町中にきれいな流れがある情緒のある小さな町だった。そんな懐かしさも手伝って、小説に引き込まれて行った。 
 
別の著書「震災列島」では、東南海地震のパニックを扱っているが、これが書かれた2004年当時で、既に浜岡原子力発電所の“危うさ”について言及している。 
不安定な断層の上にあること、予備電源が消失してメルトダウンに向かうこと、水素爆発が起こることなど、正に今回の福島原発で起こっていることがここで述べられていた。 
菅前首相は浜岡原発の運転中止の要請をするに当たり、既にこの本を読んでいて、この判断をくだしたのではないかと思った。 
 
全世界陸地のわずか0.28%の国土で、世界の大災害(大地震や火山噴火)の10%を背負う運命にある我が国は、 
国のデザインの根幹に、“防災や減災”というものを盛り込むことを国民的コンセンサスとしなければならないだろう、という著者の主張には肯ける。 
小説の中で、この未曽有の大災害に対して陣頭指揮している菅原首相をして、 
*「わたしは国民の皆さんに提案したい。今回の破局噴火を契機に、そろそろ国情に合わない国造りは止めにしませんか? 
何万年待とうが、日本が世界の地震と火山の十分の一を引き受ける地変の国という現実は変わらないのです。ならば、地震と噴火に強い国家形態を模索すべきではないでしょうか?それにはコストも掛かりますし、我慢も必要です。非効率にも見えます。しかし、今は一国家が単独で生きていける時代ではありません。外国が安心して投資できる国を造らねば、日本は世界の孤児です。そして、海外から見て安全な国を造ることが、私達日本人にとっても安心して暮らせる国を造ることになるのです。今度こそ千年万年の国造りを目指してみませんか?(後略)」* 
と云わしめている。このことも石黒さんが云う“布教”ということなのだろう。 
今年、東日本大震災と福島第一原発事故という未曽有の大災害に見舞われた私たちに、投げかけられている言葉とも受け止められる。 
 
*・・・・*部分は、講談社文庫「死都日本」からの引用 
(2011-9-16記) 
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プロフィール
mimi_hokkaido
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2007年に横浜から夫婦で移住。趣味は自然観察/山登り、そしてスケッチやエッセーを書く・・・ 
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・お酒 
・「坂の上の雲」 
洞爺湖有珠火山マイスターに認定されました。 
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