本棚を見に行った。家具屋にではない。 本棚なんて珍しくなく、どこの家庭にもある。
それをわざわざお金を払って見に行くのだから、知らない人が聞いたら『どうしたの?大丈夫?』と言われそうだ。でも『大丈夫』である。ボケてはいない。

本棚を見に行ったのは、それなりの理由がある。
ある時、マンションのデジカメクラブのたった1人の女性会員から、『東洋文庫の招待券があるのですが、行きますか?』と言われた。
東洋文庫という名を知らなかった私のことを思ってか、彼女はチケットを差し出した。
チケットの表面には見たことのある書棚の写真が見えた。

この写真を「私は以前に何かで、見たことがある」とすぐ分った。
『一緒に行こう』と、彼女に誘われたのではないことも分っている。
私は『ここへは行きたいと思っていた』と答えると、招待券を1枚くれた。
そして「緊急事態宣言」と熱中症予報で「厳重警戒」が出ている中を、文京区にある「東洋文庫ミュージアム」に行ったのである。

東洋文庫は不忍通りに面した巣鴨の近くにある。1軒おいた隣に広い住宅街があるが、ここは以前は理化学研究所のあった場所だ。現在は和光市に移転してしまったが、私が卒論でこの理化学研究所に1年間、通った懐かしい場所である。
理化学研究所はそれまでは一般の人は知らなかったが、かなり前だがSTAP細胞の疑惑で有名になった小保方晴子さんの在籍していた研究所である。私は「塑性加工」という、自分でもよく分からない難しい卒論に取り組んでいた。

東洋文庫は東アジアの文献を揃えた世界有数の図書館だそうで、一般人は「モリソン書庫」を見る為に併設されている「東洋文庫ミュージアム」に来るのである。
「モリソン書庫」とは「1917年に三菱財閥の第3代の岩崎久彌が北京在住のオーストラリア人G.E.モリソン博士から、東アジアに関する欧文の書籍・絵画・冊子等の約2万4000点を購入した。現在価格で換算すると、70億円に相当するそうだ。

入場料は一般は900円、シニアは100円引きの800円であるが私は招待券がある。
入口で手指の消毒、体温検査を終え、渡された用紙に連絡先を書く。
1階は天井が高く、今は地震に関する書籍を陳列している。
フラッシュを使用しなければ、写真撮影も許されるのが嬉しい。
目的の「モリソン書庫」は2階にあるので、階段を上って2階に行く。

2階に上がると、目の前に「モリソン書庫」が現れる。
その光景に圧倒される。見学者も1人か2人くらいしかいない。
天井まで積み上げられた書庫は薄暗く、それが重厚さを醸し出している。
私は正面に用意されたソファに座り、静寂の中でただただ書庫を見つめている。
書物に触れることは禁止だが、書庫のデザイン、書籍の数量に圧倒される。
「本棚が芸術になる」と、この時、初めて知った経験だった。

(おまけの話)
「モリソン書庫」を見た後に、都バスに乗って上野に出た。
不忍池の蓮の花がどうなったのか、気になったからである。
蓮の花を見に来たのは、今回で4回目になる。
地球温暖化が影響しているのかどうか分からないが、昨年より落花が早い。
もう多くの花が落ちて、花托になっている。この光景も悪くない。

隣のボート場はお休みなのか、サギが木の枝に止りノンビリ休んでいる。
川鵜も警戒感もなく、休んでいる。木陰ではホームレスが何か食べている。
中国語を話しながら、若いカップルがスマホで動画で自撮りをしながら歩いて来る。
気温が33度を越えているので、池の周りもあまり人が出ていない。

あまりの暑さに涼しさを求めて、上野松坂屋に入る。
昼時になっていたので、地下一階の食糧品売り場にある天ぷら屋の「天一」のイートインで「小エビのかき揚げ天丼」を食べた。揚げ方があまり上手でなく、衣が硬くてあまり美味しくなかった。
家に戻り自分で「氷抹茶金時」を作って食べたが、美味しかった。

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