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鏡の中の違和感

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娘が突然、2026年俺のイメチェンをしようよと言い出した。
62歳となった俺のすっかり白くなっている頭髪である。
多分話の始まりはカミさんだ。彼女は佐野元春のコンサート以降、MOTOのヘアスタイルにしろとしつこい。俺はMOTOじゃないから無理だといっても聞く耳をもたないようだ。
髪を染めたりするのは、みうらじゅんの弟子として「老けづくり」をしている俺としてはその主義に反するし、嫌だなと思っていた。だが、みうらじゅん師匠は「『老けづくり』とはいっても汚い老人になってはいけない」とも言っていたのを思い出した。 それで「まあ、身だしなみとしてはそうなのかな……」と思い、娘に合意したのが運の尽きだった。早速娘はどこかで薬剤を買ってきたかと思うと、まずはバリカンでの散髪となった。

ロックンローラー佐野元春

もう俺は何年も床屋や美容室に行ったことはない。ここのところはずっと自分でバリカンで散髪してきた。それでもまあ問題なかったからだ。娘に散髪されるのは久しぶりだった。

俺は昔から男は中身で勝負するものだとずっと思っていた。飾らない美学だ。小学校の時から新調した真っ白なピカピカの上靴を履くのが格好をつけているみたいで恥ずかしくて、わざわざすぐに汚くして履いたものだ。見かけを重視しないから、自分の鏡を見るのも朝、顔を洗う時くらいだ。自分の顔を1回も見ないときもある。たまに鼻毛が伸びているのに気づくと抜くわけだが、最近は眉毛に随分と長い白髪が混じっているに気付き、「老けてきたな。」と実感している。

散髪が終わって髪が短くなった。娘が薬剤の使用方法が書いてある箱を読み上げてくれたので、風呂場で付属のブラシを使って毛を染めていくことにした。ひとりで鏡を見ながら作業しているとなんか不思議な感じがした。自分の顔をそんなに見ることがないからだ。そして5分、10分と放置しているとどんどん髪が黒くなってきた。頭を流した。すると・・・

風呂場の鏡に写っているのは実に違和感のある男であった。
まるで墨汁を流したかのように、光を吸い込む黒い髪。しかしその黒々とした髪の下にある顔は紛れもなく60代の男の顔だった。目元の深いシワ。重力に逆らえない頬のたるみ、そしてシミ。なんて汚い顔だ。その汚い老人の顔が、髪が黒くなることでコントラストとなってしまっている。

「・・・なんだ、これは・・」

若々しくなるどころか、顔の老いが強調されているように見える。そしてこの凄まじい不協和音はどうにも顔になじまず、安っぽいカツラのように浮いて見えてどこかしら滑稽ですらあった。

「失敗した・・・」

シャワーの音の中で、思わず口をついて出た言葉が風呂場に響いた。 鏡の中の自分と目が合う。明らかにどこか困惑し、「何やってんだ、俺は」という後悔の色が浮かんでいる。イメチェンをするということで、コンビニにも気軽に行けなくなるなんて想定はしていなかった。

風呂から出ていくと、娘とカミさんが笑った。 カミさんには「なんかプロゴフファー猿みたい」なんていわれた。プロゴルファー猿かい・・・確かにそうかもしれない。そして「あー、でもいいじゃん」なんてフォローにもならない感想が投げかけられた。イメチェンを期待していた娘をがっかりさせてしまったかな・・。
早速写真を撮られて子どもたちへLINEで送られ、感想が返ってくる。オーストラリアの娘からは 「良いんじゃない? 見慣れないけど」なんてきた感想から、やはりかなり違和感があることを示している。

プロゴルファー猿公式チャンネルより

ここのところ最近はハゲを気にして帽子を被って外出するようにしていたが、今度は別の理由で帽子を被ることになる。コンビニに行ったときの「あーあ、この人、やっちゃったんだ……」なんてよく知っている店員の心の声が、今から聞こえてくるようだ。

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犬と暮らしとカヤックと

kayaker

豊浦町でワンコたちと暮らし、たまに海で遊ぶ日常をつづります。

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