■英順さんのチェロ演奏
土田英順さんはチェロ演奏家である。
2011年3月11日の東日本大震災後、チャリティーコンサートを精力的にこなしている。
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昨年に続いて壮瞥町の「山美湖」で今年もコンサートが開かれたので出かけた。
今回は260回目のチャリティーコンサートになるそうだ。全国を歩き回り、集まった入場料や寄付金を被災地の復興のために充てている。
全くの手弁当で、自身の旅費や、相棒であるピアニスト鳥居はゆきさんの費用は、コンサート会場でのご自分のCDや本の売り上げでまかなっている。
被災地に長期で出かけたときは、ホテル代などもかさむので、仮設住宅に20日間ほど泊めてもらって演奏活動などを続けたこともあるそうだ。
土田英順さん、78歳。高校時代に父のすすめでチェロと出会い、日本フィルや札幌交響楽団の首席奏者を長年務めた。北海道を中心に4年間チャリティーコンサートを続け、南は和歌山県まで出かけた。ときどき東北の被災地を訪れ、被災者の方々の生の声を聞く。
集まった募金で「じいたん子供基金」を作り、被災地の学校に楽器を贈り、子供の遊び場を作った。最近では、仮設住宅に昼間残るのは独居老人が多く、一日中家の中でテレビを見るか寝ているかの生活から、認知症が進むのが心配だと感じる。何か出来ないかと思い、仮設住宅の中庭に花壇をつくることを提案する。どんな花がいいかと希望を取ると、カサブランカ、グラジオラス、菊との答えが返ってきた。
早速基金から、これらの球根や苗を手配して、植え付けを始めた。みんなが土いじり作業に出てきて、その後水やり、草取りなどで外に出ることが増えた。
住民の人は「8月に菊が咲いてくれるといいな」と云う。8月のお盆に、亡くなった人の墓に花を供えたいという気持ちなのだ。自分たちの家に飾る前に、まずは亡くなった人々へ花をたむけたいという気持ちなのだ。
奏でているチェロは、岩手県大船渡市の被災民家で見つかったものだ。津波で亡くなった持ち主の友人から託され、「このまま捨てるのは忍びない」という思いから、修理して音が生き返ったという。このチェロと共に演奏活動を続けている。
わたしは、英順さんの演奏を聴くのは2回目である。
昨年も壮瞥町で行われたチャリティーコンサートを聴いて、帰りにCDをもとめた。
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昨年わたしは、このCDの音楽を聴くことで、どんなに慰められたことだろう。
昨年の夏わたしは頭部に帯状疱疹が出て、その前後数か月間、めまいや不快な気分に悩まされた。そんなときに英順さんのチェロの音が、一番やさしく身体に響いてきた。毎日このCDをかけて同じ曲を何回も聴いていた。音の高さというのだろうか、ヴァイオリンのような高く響く音ではなく、チェロの音色は心にしみ透るように感じた。
夜気分が悪くなかなか寝付けない時に、部屋を暗くしてソファーに腰かけてチェロの曲を聴いているとしだいに心が落ち着いてきた。
今回も演奏会が終わった後、ロビーでCDなどの販売コーナーがあったので、別のCDをもとめた。英順さんにサインをもらうときに、私の経験「昨年英順さんのCDの曲に慰められたのですよ」と話して、握手をした。英順さんの手はがっちりしていた。
今回の演奏会での曲目は、祈りの曲4曲から始まった。
鳥の歌(カタローニャ民謡)、アヴェマリア(カッチーニ)、アヴェマリア(シューベルト)、アヴェマリア(グノー)。続いてピアソラのブエノスアイレスの四季から 夏、秋、月光(ベートーヴェン)、ノクターン第20番(ショパン)、白鳥(サンサーンス)、リベルタンゴ(ピアソラ)などが奏でられた。
今回もとめたCDの中には、石川啄木の短歌に曲を付けたうちの一つ「初恋」という美しいメロディーがあった。昭和13年、作曲者の越谷達之助が石川啄木の短歌15編に曲をつけ「啄木によせて歌える」という歌曲集をまとめた。この歌はその第1曲目で
「砂山の砂に腹這い初恋のいたみを遠くおもい出ずる日」と説明されている。
他にも「ニューシネマパラダイス『愛のテーマ』」敗戦後のシチリア島を舞台にサルヴァトーレ少年の青春、恋、映画への熱い思いを描いた映画のタイトル曲。
「ボンジュールマダム」チャプリン作曲、「いつも何度でも」は「千と千尋の神隠し」の主題歌、「エストレリータ」は近代メキシコ音楽の父ポンセの作詞作曲などがやさしいメロディーだと思った。世界中の20曲が収まっているのだが、どれを聴いても平らかに感じる。
(2015-3-24記)