■グリーン・ゲイブルズ
中年女性の聖地ともいうべきところだろうか。
カナダのプリンス・エドワード島は、「赤毛のアン」の物語の誕生したところである。
モンゴメリ作「赤毛のアン」は、世界中で読み継がれているベストセラーで、ファンが多い。特に中年女性の間では絶大な人気を誇る。
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カナダの作家 L・M・モンゴメリが1908年に発表した長編小説「赤毛のアン」(Ann of Green Gables)は、世界中で100年以上にわたり読み継がれている。
モンゴメリは、少女時代に育ったカナダのプリンス・エドワード島の自然の風景を思い出しながら、主人公のアン・シャーリーを活き活きと描いた。
孤児院暮らしをしていたアン・シャーリーは、11歳でアヴォンリー村のカスバート家に引き取られ、クィーン学院を卒業するまでの少女時代5年間を、カスバートの家グリーン・ゲイブルズ(カスバート家の屋号、直訳すると“緑の切妻屋根”となる)で過ごす。
クラークゲーブルではありません!
カスバート家のマリラとマシューは、孤児院から男の子を引き取ろうとしたのだが、何かの手違いで女の子のアン・シャーリーが来てしまった。
アンは髪の毛は赤毛で、目の色は緑がかった灰色、とてもやせていて、青白く、そばかすだらけの顔をしている子。自分の赤毛に劣等感を抱いている。そのため、自分のことをカラスの羽のように見事に真っ黒な髪に、すみれ色の瞳、顔は薔薇の花びらのようで肌は透き通るような象牙色、目は星のように輝いていて、名前はレディー・コーデリア・フィッツジェラルド(自分のアンという名前はロマンティックでないと思っている)だと夢想している女の子。
いつもロマンティックなことを夢想しているアンに、憧れを抱く女性が多いのだろう。
物語はアンとマリラ、マシューの家族を軸に、アンの親友となるダイアナ・バリー、やがてアンと結婚することになるギルバート・ブライスなどが登場してプリンス・エドワード島の美しい四季の風景の中で展開していく。
「赤毛のアン」を読んだマーク・トウェインは、モンゴメリに書簡を送り、
「the dearest and most moving and most delightful child since the immortal Alice」(直訳すると「かの不滅のアリス以来最も可愛らしく、最も感動的で最も利発な子」)と絶賛した。
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北海道 芦別市に“カナディアン・ワールド”という赤毛のアンの世界をイメージしたテーマパークがあった。広い敷地にグリーン・ゲイブルズの家やプリンス・エドワード島の家々を再現した場所であった。1994年の夏に北海道旅行に来た時に、“カナディアン・ワールド”を訪れたことがあった。忠実に再現されたグリーン・ゲイブルズの家の前で写真を撮ったり、アヴォンリー村の家々を見た
り、高い塔に登り“カナディアン・ワールド”の全景を見たり、おみやげに花が描かれた小皿をもとめたりした。
残念ながらこのテーマパークは、赤字が続いたために1997年に閉園された。その後芦別市が施設を再利用する形で、無料の市民公園として再出発させている。今でもここに行けば、アヴォンリーの村の家々が見れそうだが、経費のかかる施設や設備の運用は事実上放棄されているので、かつてのような家並みが見られるかは不明である。
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八ヶ岳の南麓、大泉高原にペンション“プリンス・エドワード”があり、かつて家族の夏休みの旅行で泊まったことがあった。
オーナーの設計になるグリーン・ゲイブルズを模した緑の高い屋根の建物。中に入ると銅製の大きなアンの人形が迎えてくれた。
オーナーの趣味は木工とのことで、花車やペン立て、アンの人形をモチーフにした木工品などがおみやげ用に並べられていた。アンの時代を再現する衣装も貸し出されて、これを着て記念撮影をすることも出来る。オーナーの奥さんはドライフラワーを作ったり、ハーブを中心とした庭造りもしている。きっとオーナーの奥さんが熱烈なアンのファンなのだろうと思った。
家に「プリンス・エドワード島 世界一美しい島の物語」吉村和敏撮影 という写真集がある。眺めていると、うねった畑作地の向こうに海が見えたり、タンポポの黄色の花が一面にさく野原の向こうに瀟洒な家があったり、りんごの白い花の並木がつらなったり、一面にワイルドフラワーが咲くシャーロットタウンの郊外とか、6月のルピナスが一面に咲く風景とか、紅葉に染まった木のトンネルや、一面の雪景色の世界など、四季折々の美しい風景が展開している。
どこか信州や北海道の風景に似ているところがある。
今回、後半の2枚の絵は、この写真集の中からスケッチさせてもらった。
(2012-8-16記)